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872 亡者出棺
亡者出棺は江戸時代中期、村純清の『奇事談』に次のような話があります。
その昔。
金沢の宗徳寺に遺体が運び込まれたのですが、住職が留守だったので檀家にはいったん帰ってもらい、棺は客殿に上げ置かれました。
その後。
弟子僧たちが庫裏で豆腐田楽を食べていると足音がして、棺の亡者が歩いてきました。
みなが驚いて逃げると、亡者は田楽を残らず食べて再び棺に納まりました。
それを聞いた住職は猫の仕業だろうと、すぐに棺を火葬場へ運んで経を唱えたところ、雷が鳴り棺に黒雲が下りました。
住職がその黒雲を数珠で殴りつけると、大きな老猫が現れて倒れ死に、黒雲はかき消えました。
この亡者。
病で長くネコんでいたのでした。
・ネコんで=猫んで=寝込んで
・村純清(むらすみきよ・生没年不明・江戸時代中期)
・『奇事談』(詳細不明)