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870 松の木の霊
松の木の霊は濱田隆一著『天草島民俗誌』に次のような話があります。
天草諸島の下島にある櫨宇土村の山には、土地の人から神聖視されている一本の大きな松の木があった。
五、六年前。
櫨宇土村で山火事があったとき、その松の木も燃えてしまったのだが、そのときこの松の木で奇妙なことがあったそうだ。
松の木に火が燃え移ると、木の根本にあった洞の中から大きな火の玉が飛び出して、3、4間ほど上昇したかと思うとパッと消えた。
その一部始終を見ていた村人は何人もいて、「あのとき見た火の玉は、松の木の霊だった」と、それは今も語り伝えられているという。
この松の木の霊。
木の根本をウロツイテいたのでした。
・ウロツイテ=うろついて=洞付いて
・濱田隆一(はまだりゅういち・昭和初期の民俗学者)
・『天草島民俗誌』(あまくさとうみんぞくし・1932年刊)