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862 狐の玉火
狐の玉火は江戸時代中期、大田南畝の『一話一言』に次のような話があります。
ある夏の晩。
江戸本所の大工が戸外で涼んでいると、どこからともなく狐が現れました。
その狐が白い玉を転がすと、玉に火がついて燃え始め、狐はその火で地面を照らし、虫を捕まえて食べ始めました。
大工はその玉を素早く拾い上げ、狐から奪い取りました。
それ以降。
大工はこの玉火を明かりにしていたのですが、以来ずっと狐につきまとわれ、次第に痩せ衰えていきました。
ある晩。
祟りを恐れて玉を遠くに転がしたところ、たちまち狐が躍り出て玉を奪って走り去りました。
その後。
大工は何事もなかったといいます。
この狐の玉火。
タマに祟りがありました。
・タマ=玉=偶
・大田南畝(おおたなんぽ・1749~1823・文人・狂歌師)
・『一話一言』(いちわいちげん・江戸時代後期の随筆)