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861 蝶の戸渡し
蝶の戸渡しは江戸時代後期、松浦静山の『甲子夜話』に次のような話があります。
ある人から「蝶の戸渡しというのをご存知ですか」と尋ねられた。
筆者が「かつて船で玄界灘を行くとき、この目で見たよ」と応えると、その人は「実は私も玄界灘で見ました」と言った。
ちなみに「戸」は、二つの海岸が隔たって向き合っていることをいう。
蝶は荒海を対岸まで渡る。
ただし渡るのは晴天で風がなく、海が静かなときであり、蝶はその機を知っている。
行方は定かでない。
蝶の心は測りがたく、どこを指して飛ぶのか知れないまま、ただ天地間の小事として眺めるばかりだ。
この蝶の戸渡し。
海に落ちる蝶もいました。
「ここはゲンカイナダ」
・ゲンカイナダ=玄界灘=限界だな(げんかいだな)
・松浦静山(まつらせいざん・1760~1841・肥前平戸藩主)
・『甲子夜話』(かっしやわ・随筆)