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859 鰻男
鰻男は岩手県岩手郡雫石町に次のような話が伝わっています。
その昔。
雫石村に美しい娘がおり、年頃になると毎晩、見知らぬ若い男が通ってくるようになりました。
ある晩。
家の軒下から何者かの話し声が聞こえました。
「長年の望みが叶って、人間に種子を下ろすことができた」
「油断はできんぞ。素性がばれ、端午の節句の五色の薬草を飲めば、子は流れてしまう」
これを聞いた両親はたいそう驚き、さっそく耳にした薬草を娘に飲ませたところ、娘は大事には至りませんでした。
その後。
男の正体は沼に棲んでいる古鰻だとわかり、ときおり鰻の油が、床下の付近にべっとり付いていたといいます。
この鰻男。
油断できないやつでした。
・油断=鰻の油