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850 地震の怪1
地震の怪は畑銀鶏の『時雨廼袖』に次のような話があります。
安政2年10月2日。
我が友、山田文三郎は所用で品川宿に出かけ、帰りが夜になった。
芝明神前を通ったとき、突然、空からグンっという音が聞こえた。
文三郎が空を見上げると、火のついた木切れを口にくわえた坊主の首が飛んでいたので驚いて逃げようとしたとたん、今度は大地がグラグラ揺れた。
世にいう安政の大地震である。
あまりの揺れの激しさに、文三郎はその場に座り込んで、動けずにいた。
周囲を見回すと、道の両脇の家々は残らず屋根瓦が落ちていた。
これと同じ時刻。
浅草や駒形あたりで、数人が同じような怪現象を見たという。
この地震の怪。
トンダ怪現象を目撃したのでした。
・トンダ=飛んだ=とんだ
・安政2年=1855年