846/905
846 油に酔った狸
油に酔った狸は根岸鎮衛の『耳袋』に次のような話があります。
内藤宿より先に井伊家の屋敷があり、嘉平という百姓が門番を務めていた。
ある日の夕暮れ。
嘉平は明かり用の油の入った壺を下げ、自宅へと歩いていた。
だがいつまでたっても家に着かず、同じところを何度も歩いていた。
そして朝。
やっと家に帰り着いたときは、壺の中の油は空になっていた。
嘉平は狸に奪われたと悔しがった。
その晩。
嘉平は何者かのいびきの音で目を覚ました。
物置を覗いてみると、そこには狸が寝ていた。
嘉平は棒で狸を打った。
狸は驚いて起きたものの、油を飲んで酔っていたため逃げられず、そこで叩き殺されたという。
この油に酔った狸。
油断していたのでした。
・油断=油
・根岸鎮衛(ねぎししずもり・1737~1815・旗本)
・『耳袋』(みみぶくろ・雑話集)