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833 ちんちろり
ちんちろりという妖怪がおります。
江戸時代末期の岩国藩士、広瀬喜尚著『岩邑怪談録』の「加藤氏、変化に逢ふ事」に次のような話があります。
岩国の加藤何某が夜遅く、西宇治から岩国城下へと帰る途中、道祖峠を越えるあたりで小坊主が寄ってきて言いました。
「加藤殿はちんちろり」
加藤某は豪胆でしたので言い返しました。
「お前こそちんちろり」
「加藤殿はちんちろり」
「お前こそちんちろり」
張り合いながら歩き進むうち、その小坊主は加藤某の家までついてきました。
加藤某が門口を閉めると、小坊主は門の屋根の上からにこにこと笑いかけ、「さても強い者じゃ」と言って立小便をしました。
このちんちろり。
チンチロリ見えました。
・チンチロリ=ちんちろり=チンがチロリ(チラッと)
・広瀬喜尚(ひろせきしょう・1761~1833・博識家)
・岩邑怪談録(がんゆうかいだんろく・岩国藩内の怪談録)