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819 天火1
天火は怪火の一種です。
これは日本各地に伝承があり、江戸時代後期、桃山人の『絵本百物語』に次のような話があります。
その昔。
あるところに強欲で非情な代官がいて、この代官は私利私欲のため悪行を重ね、さらに自分の非は絶対に認めようとしませんでした。
代官の座を降りた翌月。
この代官の屋敷が火事になりました。
屋敷は跡形もなく焼け、代官自身も焼け死に、それまで蓄えていた金銀財宝など、すべてがあっという間に灰となって消えてしまいました。
この火事の直前。
空から降りてきたひとかたまりの火によって煙が上ったことが、多くの人々によって目撃されていたといいます。
ヒのないところに煙は立たぬといいます。
・ヒのない=火のない=非のない
・桃山人(とうさんじん・1804~1844・戯作者)
・『絵本百物語』(1841年刊行・奇談集)