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816 倉坊主
倉坊主は怪異の一種で、江戸時代後期、根岸鎮衛の随筆『耳袋』に次のような話があります。
江戸本所に数原宗徳という幕府の御用医師がいたのですが、この者の屋敷の倉には奇妙な怪異が伝えられていて、それは倉から物を出したいときは、そのたびに倉に断りを入れなければ凶事があるということでした。
ある年の暮れ。
数原邸が火事の延焼にあったのですが、なぜか件の倉だけは焼け残りました。
その晩。
寝場所を失った家人が倉で寝ていると、深夜になって奇妙な坊主が現れました。
「ここはわしのネグラだが、非常時なので今夜だけは許してやる。今後はこの倉で寝ることのないように」
倉坊主は冷たく言って姿を消しました。
倉坊主はネクラでした。
・ネクラ=ねぐら=根暗
・根岸鎮衛(ねぎししずもり・1737~1815・旗本)
・『耳袋』(みみぶくろ・雑話集)