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814 アツゥイカクラ
アツゥイカクラという妖怪がおります。
アイヌに伝承があり、これは北海道の内浦湾に棲んでいた巨大なナマコで、川から海に流れ着いた女の肌着が変化したものだといいます。
普段は流木などに吸いついて海上に浮かんでいるのですが、遭遇した漁師を惑わせたり、近づいた船を沈めたりしました。
その昔。
ある漁師は漁の途中、波間に漂う白い布切れを見つけました。
――もしや化け物?
一瞬、アツゥイカクラかと思いましたが、布の色と形からして娘の腰巻のように見えました。
漁師は嬉しそうにそれを拾い上げました。
ですがたちまち残念な顔になります。
それは男物の下着だったからです。
漁師はすぐにそれをポイと海に投げ捨てました。
「ステテコ」
・ステテコ=すててこ(男物の下着)=捨てとこ