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812 オキナ1
オキナという妖怪がおります。
これは蝦夷の東海にいる巨大な魚で、江戸時代後期、桃山人の奇談集『絵本百物語』に次のような話があります。
オキナは春に南の海に行き、秋になると戻ってきたといい、これが現れる際は海底から雷鳴のような轟音が響わたって大波が起こり、エサとして鯨を呑み込むため、鯨は喰われまいと四方八方に逃げ出すといいます。
全身を目撃した者はいないものの、体長は2里から3里におよぶと考えられ、まれに海上に浮かぶ姿を目にすることができた者は、まるで大きな島々が連なっているかのようであり、それも背中の尾ひれが海面から出ているにすぎないのだと語りました。
このオキナの話。
話に尾ひれがついています。
・尾ひれがついて=背中の尾ひれが海面から出て
・話に尾ひれがつく=実際以上に話を大げさにする
・二里=約8キロメートル
・桃山人(とうさんじん・1804~1844・戯作者)
・『絵本百物語』(1841年刊行・奇談集)