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776 手負蛇
手負蛇は江戸時代後期、桃山人の奇談集『絵本百物語』に次のような話があります。
その昔。
某村で稲荷の宮を建てるために境内の土を掘っていたところ、地面の下から頭部に髪の毛が生えた奇怪な蛇が出てきました。
子供たちがその蛇を棒で叩いて遊び始め、それを見た村長は祟りを恐れ、子供たちを叱ってすぐにやめさせました。
このとき蛇の体は傷だらけになっていました。
村長は自ら蛇の髪の毛をつまんで持ち上げ、ていねいに布袋に入れてから、村人を使って遠くに逃がしてやりました。
その後。
村長は病魔に苦しめられることになり、かたや子供や村人たちには何の祟りもありませんでした。
この手負蛇。
触らぬカミに祟りなしです。
・カミ=髪の毛=神
・触らぬ神に祟りなし=その物事に関わりさえ持たなければ災いを招くことはない
・桃山人(とうさんじん・1804~1844・戯作者)
・『絵本百物語』(1841年刊行・奇談集)




