757/917
757 山姫1
山姫という妖怪がおります。
これは全国各地に伝承があり、中世以降の怪談集、随筆などでは、長い髪を持つ色白の美しい女で、人の生き血をすするとされています。
その昔。
屋久島吉田村の村人十八人が麦の初穂を供えるために御岳に登り、その日は途中で日が暮れたため、山小屋に泊まりました。
翌朝。
飯炊きがほかの者より早く起きて朝食の準備をしていたところ、奇妙な女が現れて、眠っている仲間の上にまたがって何かをしています。
飯炊きが物陰に隠れて様子をうかがっていると、仲間はみな、血を吸われて死んでしまいました。
山姫が隠れていた飯炊きに向き直りました。
「誰にも話すんじゃないよ」
以来。
このことはヒメごとにされてきました。
・ヒメ=姫=秘め
・秘めごと=秘密
・初穂=収獲に先立って神に献じる熟した穂