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755 篠崎狐
篠崎狐は江戸時代後期の奇談集『梅翁随筆』に次のような話があります。
その昔。
江戸川篠崎に四匹の狐が棲んでいました。
ある夏の日。
四匹が野原で昼寝をしていたところ、通りがかった行商人の男が大声をあげて脅かしました。
狐たちは飛び起きて逃げ出しました。
その日の夕方。
男が知人宅に立ち寄ると、家の主人は「女房が亡くなり、その野辺送りに行く」と、男に留守を頼んで出ていきました。
男が留守番をしていると、そこに女房の亡霊が現れて噛みついてきました。
男は血まみれになって逃げました。
翌日、女房の亡霊を狐の仕業と思った男は、狐たちがいた野原に行き、ボタ餅を供えて謝りました。
この一件。
狐たちにとってはタナボタでした。
・タナボタ=ボタ餅=棚から牡丹餅の略
・棚から牡丹餅=思いがけず幸運にめぐり合った様子
・『梅翁随筆』(作者不詳・奇談集)




