752/917
752 封
封という妖怪がおります。
江戸時代後期の漢学者、秦滄浪の随筆『一宵話』に次のような話があります。
1609年。
駿府城に肉の塊のようなものが現れました。
姿かたちは小児のようで、手はあるが指はなく、肉人とでもいうべきもので、妖怪の類いのものなのか動きが素早くて捕まえられませんでした。
当時の城主、徳川家康が外へ追い出すよう命じ、家臣たちは捕獲をあきらめて城から追い出しました。
その後。
この話を聞いた薬師は、それは封というもので中国の『白沢図』にも記載があり、この肉を食べれば仙薬になったのにと口惜しがりました。
その後。
薬師の話を伝え聞いた家康は驚きの声を上げたといいます。
「ホウ!」
・ホウ=封=ほう(驚きの声)
・秦滄浪(はたそうろう・1761~1831・儒者)
・『一宵話』(ひとよはなし・随筆・1811年刊)
・『白澤図』=神獣・白沢の言葉を記録して、あらゆる鬼神を撃退する知識が書かれた書物