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743 角椀漱
角椀漱という妖怪がおります。
岐阜県に伝承があり、名前の「漱」には「すすぐ、洗う」の意味があります。
その昔。
ある年の盆、猫を抱いた武士が長者の屋敷を訪ねてきて、客20人分の椀を貸して欲しいと頼みます。
長者は断れず漆の椀を貸しました。
ですが椀が返されることはなく、それどころか次の年も、武士は猫を連れて椀を借りにやってきました。
長者が不審に思い下男に後をつけさせたところ、武士は山奥の池まで行き、椀を抱えて水の中へと姿を消しました。
それを聞いた長者は気味悪くなり、翌年は一計を案じ、椀に縫い針を刺して貸しました。
それ以来。
件の武士はニャンともワンとも言ってこなくなりました。
・ニャンとも=何とも=猫
・ワンとも=椀とも