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731 水を汲む化け物
水を汲む化け物は千葉県いすみ市に伝承があり、江戸時代後期、平秩東作の『怪談老の杖』に次のような話があります。
上総に大唐ヶ鼻という海の中に突き出たところがあり、ある船乗りが水の補給に上陸しました。
すると美しい女が井戸で水を汲んでいたので、その水を分けてもらって船に戻りました。
船頭が言います。
「あの場所に井戸はない。昔、ここで同じように水を分けてもらった者が行方知れずになった。その女は化け物だ」
その直後。
先ほどの女が船べりに近づいてきました。
船頭は追い払おうと櫂で女を何度も叩きましたが、女は少しも動じることなく櫂にかじりつきました。
櫂が真っ二つに折れます。
叩くカイがありませんでした。
・カイ=甲斐=櫂
・平秩東作(へづつとうさく・1726~1788・戯作者、狂歌師)
・『怪談老の杖』(かいだんろうのつえ・怪談)