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724 咳病の鬼
咳病の鬼は怪異の一種で、江戸時代後期、速水春暁斎の『絵本小夜時雨』に次のような話があります。
16世紀の初頭。
越前国の村々に咳の出る病が流行しました。
そうしたなか不思議なことに、某浪士の家では咳病にかかる者が出ませんでした。
ある夜も遅く。
翁が訪ねてきて言います。
「私はこの家の辰巳隅に住む者だ。このところ咳病の鬼が家々に入り、人々を悩ませている。そなたの徳行を感じ、門前にて鬼を防いでおる」
そこで浪士が辰巳の一画を掘ってみると、土中から札の入った箱が出てきて、翁が咳病から守ってくれていたことを知りました。
浪士はこれを伝えようと、さっそく寝ている妻を起こしました。
「オキナ!」
・オキナ=翁=起きな
・速水春暁斎(はやみしゅんぎょうさい・1767~1823・浮世絵師、読本作者)
・『絵本小夜時雨』(えほんさよしぐれ・絵本読本)




