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720 大蝦蟇1
大蝦蟇は江戸時代後期、橘崑崙著『北越奇談』に次のような話があります。
その昔。
越後国村松藩の藤田という武士が、河内谷の渓流の岩場で釣り糸を垂れていました。
すると対岸で釣っていた武士が、藤田に「早く帰れ」と声をかけ、その場から逃げ去りました。
藤田は釣りをやめ、武士を追って理由をたずねました。
その武士が教えます。
「貴殿が先ほどまで座っていたものが、火のような赤い目玉を開き、口を開けてあくびをしたのです」
二人が元の場所へ戻ってみると、先ほどの岩場は消えており、それは大蝦蟇であったということになりました。
それ以来。
大蝦蟇の岩場で釣りをする者は、だれもが釣りの途中でそこをカエルといいます。
・カエル=大蝦蟇=帰る
・橘崑崙(たちばなこんろん・1761~1819・詩書画家)
・『北越奇談』(ほくえつきだん・随筆集)