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707 森囃
森囃は怪火の一種です。
江戸時代中期、菊岡沾涼の『諸国里人談』に次のような話があります。
享保の初めの夏。
武州と相州の境の信濃坂で毎晩、笛太鼓の音や人の声が十町四方に響くようになりました。
それらの音や声は産土神の林の中でしているように聞こえ、そこをのぞいてみると火は見えましたが、林の内には人影はなく、ただ音だけがしていました。
ある朝。
みんなで音がしていた林に入って調べてみると、木の枝の燃えかすや1尺ほどに切られた竹が捨てられてあったといいます。
季節が流れ、やがて囃子の音は聞かれなくなり、その正体はわからずじまいに終わりました。
この森囃。
これもハヤシのウチでした。
・ハヤシのウチ=林の内=囃子のうち
・享保年間=1716年~1736年
・菊岡沾涼(きくおかせんりょう・1680~1747・俳人、作家)
・『諸国里人談』(しょこくりじんだん・1743年刊・奇談・怪談)