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66 椿女
椿女は山形県に次のような話が伝わっています。
天明年間。
商人二人が町を過ぎて峠道にさしかかった頃、いつしか若い女がそばを歩いていました。
女は片方の商人の耳元でささやき、それから道沿いに咲いた椿の木陰に姿を消しました。
やがて声をかけられた商人が消え、1匹のハチが椿の木へと飛んでいきました。
椿の花がぽとりと落ちます。
残った商人が椿の花を拾いますと、その花びらの中にはハチの死骸があり、驚いた商人は花を持って寺に行きました。
住職が言います。
「あそこで人が消えるのはよくあることでして」
あの峠のあたりは椿の妖がいて、男を誘惑して連れ去るのだと……。
「あなたは幸いでした、ハナにもかけられなくて」
・ハナ=花=鼻
・鼻にもかけない=まったく気にとめない
・天明年間(1781~1789年)




