63/919
63 船幽霊1
船幽霊は船を沈める死者の亡霊で、日本各地にさまざまな伝承があります。
ある夜。
漁師らが船上で網を引いていると、いきなり波がうねり、波間から船幽霊が現れ出ました。
「柄杓を貸してくれ」
船幽霊が船べりに近づいてきます。
これに柄杓を貸すと海水を汲み入れられ、船を沈められてしまうので、船頭はあらかじめ用意していた底の抜けた柄杓を海に投げ入れました。
船幽霊が柄杓の底が抜けていることに気づきます。
「底のある柄杓を貸してくれ」
「柄杓はもうありません」
「ならば、水をすくえるものなら何でもいい」
「あとはこれぐらいしか……」
船頭は船で飯を食う釜とお椀を見せました。
「かまわん、かまわん」
・かまわん=構わん=釜椀




