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624 塩の長司
塩の長司は、江戸時代後期、桃山人の奇談集『絵本百物語』に次のような話があります。
その昔。
加賀国小塩の浦に、長司という三百頭もの馬を飼う長者がいて、この長者は馬が老いて役に立たなくなると殺し、塩漬けの肉にして食べていました。
ある晩。
殺した老馬が夢に現れて、長司の喉元に喰いつきました。
その日以来、馬を殺した時刻になると長司の夢に老馬の霊が現れて、長司の口から入り込んで、腹の中を痛めては出ていくという日が続きました。
薬も祈祷もきかない日々が続き、やがて長司は苦しみながら死んでいきました。
寝て夢を見るも地獄。
起きて痛みに耐えるも地獄。
この塩の長司。
まるで食いつき馬に乗ったようでした。
・食いつき馬に乗る=食いつく癖のある馬に乗ると乗っているのも危ないが降りると馬に食いつかれるので降りられないとの意から、危険なことをやめることができないたとえ
・桃山人(とうさんじん・1804~1844・戯作者)
・『絵本百物語』(1841年刊行・奇談集)




