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617 江戸麻布の大猫
江戸麻布の大猫という妖怪がおります。
その昔。
港区麻布にあった江戸下屋敷に隠居付きの盲目の鍼医がいたのですが、仕事先の隠居宅からの帰りに消息を絶ち、そのまま行方がわからなくなりました。
数日後。
鍼医は畑の肥壺で発見され、介抱の末ようやく正気を取り戻しました。
これは狐に化かされたのだろうと、隠居は狐釣りの名人を集めて狐退治に乗り出しました。
その夜。
一人が狐らしきものを捕らえました。
ところがそれはまだら模様の大きな猫で、黄表紙にある豹に似ていました。
隠居が目の見えない鍼医に教えます。
「見た目はまるで豹だよ。おまえさん、こいつに化かされて肥の中に」
「ヒョー、コエー」
・ヒョー、コエー=豹、恐えー=ひょー、肥ー
・黄表紙=しゃれと風刺に特色をもち、絵を主として余白に文章をつづった大人向きの絵物語




