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614 茶ん袋
茶ん袋という妖怪がおります。
和歌山県日高郡印南町に伝承があり、これは茶を煎じる茶袋のような姿をしていました。
印南川流域でよく見られ、木の枝にぶら下がっていたり、宙吊りで現れるほか、川の上に浮かんだり、空中をさまよったりしたといいます。
その昔。
ある男は印南川の付近で茶ん袋に遭遇し、あわてて近くの草むらに身を隠しました。
茶ん袋が飛んで消えます。
男はびくびくしながらそっと草むらを出ました。
と、そのとき……。
男は首筋に冷たいものを感じました。
あわてて見上げると、そこには茶ん袋が浮いていて、しずくを垂らしていました。
一度は消えたと見せかけて、飛んでの出現。
この茶ん袋。
トンダ茶番でした。
・トンダ=飛んでの出現
・茶番=茶ん袋
・トンダ茶番=底の見えすいたばかげた出来事