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604 黒玉の怪
黒玉の怪は江戸時代後期、富永莘陽の『尾張霊異記』に次のような話があります。
寛政十二年四月十三日の昼。
名古屋橘町の七面山妙善寺の前の道に、空から奇怪な物が落ちてきました。
それは手鞠ほどの大きさの黒い玉で、すばやく転がり動き、一度は寺の向かいの諏訪屋という商家の庭に入ったように見えましたが、再び通りへと出てきて、そこで煙となって焼失しました。
その間。
石臼屋の者たちが黒玉の転がるのを見ており、飴売りの子供二人は地面に這いつくばり、往来の大人たちもその場でへたり込みました。
この怪事を恐れた町内では、寺の裏の八幡堂に燈明をあげて夜籠りが行われたといいます。
この黒玉の怪。
みなを煙に巻きました。
・煙に巻く=見当外れのことを言って、その場を逃れようとする
・寛政十二年=1800年
・富永莘陽(とみながしんよう・1816~1879・儒者)
・『尾張霊異記』(おわりりょういき・江戸時代後期・仏教説話集)




