600/919
600 鬼娘1
鬼娘という妖怪がおります。
江戸時代後期の黄表紙などに登場する妖怪であるとともに、安永七年の六月から七月にかけ、江戸両国橋の本所回向院で催された善光寺阿弥陀如来の出開帳の際、西両国の見世物小屋に登場した鬼娘という実在の人間の女でもありました。
この見世物小屋に登場した鬼娘は、産まれたときから頭に角袋が生えており、口は耳の根元まで裂け、二本の牙を持っていて、産婆に噛みついたため牙を抜いて口を縫い縮めたと説明されました。
実際は鬼とは似ても似つかぬものでしたが、これが大いに人気を博して大評判となり、対岸の東両国には鬼娘の偽物までもが登場したといいます。
この鬼娘。
口が裂けても本物だとは言えませんでした。
・口が裂けても=口は耳の根元まで裂け
・口が裂けても言えない=およそどのような酷い目にあっても決して口外しない




