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6 油すまし
油すましという妖怪がおります。
熊本県に伝承があり、油泥棒の亡霊ともいわれるもので、油の入った瓶をさげ、山の峠に現れては道行く人々を驚かせたといいます。
その昔。
老婆が孫を連れて山の峠道を歩いていました。
「昔のことだがな、この峠にゃ、油瓶をさげた油すましというもんが出ていたそうな」
老婆が孫に話していますと、
「今も出るぞー」
突然、二人の前に油すましが現れました。
驚いた老婆と孫は走って逃げ、なんとか家までたどり着くことができました。
ひと息ついて居間に入ります。
ところが、そこでも油すましが現れました。
「イマも出るぞー」
二人はあわてて奥の納戸へと逃げ込みました。
「ナンドも出るぞー」
・イマ=今=居間
・ナンド=何度=納戸