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597 海犬1
海犬という妖怪がおります。
これは高知県に伝承があり、江戸時代後期の武藤致和著『南路志』に次のような話が記されています。
内藤惣三郎という者が、港の管理役を務めていた年の2月1日に起きたことだといいます。
その夜。
某漁師が沖へ船を出して漁をしていたところ、にわかに波が立ち、海が荒れてきて、やがて船の舳に何者かが取りついて、何かをかじるような音が聞こえてきました。
漁師は命からがら浜に漕ぎ戻りました。
翌朝。
船の舳を調べたところ、幅五分ほどの歯形がついていたので、地元の長老に見てもらったところ、それは海犬がかじった跡だと語ったといいます。
漁師は傷ついた舳を見て悔しがりました。
「ハガイイなあ」
・ハガイイ=はがゆい=歯が良い
・武藤致和(むとうむねかず・1741~1813・商人、国学者)
・『南路志』(なんろし・土佐国の歴史・1815年成立)




