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580 夢の知らせ
夢の知らせは江戸時代後期、中村乗高著『事実証談』に次のような話があります。
文化元年のこと。
三河上郷の吉太郎という者は、妻と幼子を国元に残して江戸屋敷で奉公していたが、ある夜、妻の夢に現れた。
「七五三の祝いが近いから雪駄を買った。仏壇の下に入れておく」
夢から醒めた妻はもはや眠られず、夜が明けるのを待って、このことを人に語った。
夫の身に何かあったのではないかと不安な日々を送るうち、はたして『吉太郎は江戸屋敷にて病死した』との早状が届いた。
悲しみのなか日数を数えてみれば、あの夢を見た日の夜に死んだとの知らせであった。
この夢の知らせ。
妻は幼子の将来を、吉太郎に下駄をあずけられたのでした。
・下駄をあずける=物事の処理の方法や責任などを一任する
・文化元年=1804年
・中村乗高(なかむらのりたか・江戸時代後期、遠江天宮神社の神官)
・『事実証談』(ことのまことあかしがたり・1823年刊・霊異記)




