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561 人喰老婆
人喰老婆は江戸時代中期、西村市郎右衛門著『新御伽婢子』に次のような話があります。
京の大宮丹波屋町で米穀を商う六右衛門は夜遅くになって、室町錦小路に住む親しい人の病気見舞いに出かけました。
堀川の橋を渡ろうとしたとき、六右衛門の前に何者かがよろめき出ました。
それは真っ白な髪を振り乱した80歳ばかりの老婆で、青く光り輝く眼、耳まで裂けた大口を開き、大手を広げて迫ってきました。
六右衛門はとっさに木履を脱ぎ捨て、傘をうちやり夢中で逃げました。
その晩は見舞い先で泊まり、翌朝、帰りに堀川の辻を通りかかると、木履は噛み砕かれ、傘も引き裂かれていました。
この人喰老婆、木履に噛みつきます。
ボクリ。
・ボクリ=木履=ぱくり
・木履=下駄
・西村市郎右衛門(にしむらいちろうえもん・生年未詳~1696?・俳人、浮世草子作者)
・『新御伽婢子』(しんおとぎぼうこ・1683成立・浮世草子)




