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556 がに
がにという妖怪がおります。
これは宮城県宮城郡利府町に次のような話が伝わっています。
その昔。
小野田村の愛宕神社の北方に柳沢寺という寺があり、この寺は魔の寺とも呼ばれ、入った者は誰も帰ってこれないと恐れられていました。
あるとき。
某武者がこの真相を確かめようと、魔の寺へと向かいました。
山門をくぐり客殿から奥の院へと進むと、衣をまとった公家姿の美しい女が現われたので、武者はこれこそ魔物であろうと、すぐさま一刀を浴びせました。
美女が血を流しながら逃げます。
武者が血痕をたどると、渓谷の沢で巨大な蟹が息絶え絶えとなっていました。
武者が刀を振り上げて蟹に詰め寄ります。
「何者だ!」
「カニんやす、カニんやす」
・カニんやす=蟹んやす(かにんやす)=堪忍やす




