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514 葦原の女
葦原の女は怪異の一種です。
これは江戸時代後期、古賀侗庵の『今斉諧』に次のような話があります。
その昔。
山形の某男が、朝まだ暗い時分に川へ釣りに行ったのですが、そこは河原一面に葦が生い茂っていました。
釣りができる場所を求め、葦原の葦を手でかき分けて進んでいると、やがて赤子の泣き声が聞こえてきました。
男は怪しく思い、わずかな朝の光の中で周囲をうかがうと、やつれた女が骨と皮の身体に髪を乱れ垂らして、葦の葉の上に影が漂うがごとく浮かんでいる姿が目に映りました。
女は赤子を抱き、その子に痩せさらばえた乳を含ませていました。
――もしかして幽霊か!
男が女の足元を見ると、そこにはアシがはえていました。
・アシ=葦=足
・古賀侗庵(こがどうあん・1788~1847・朱子学者)
・『今斉諧』(いまさいかい・随筆)




