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51 海月の火の玉
海月の火の玉は怪火の一種です。
加賀国の海岸に現れたといい、江戸時代中期、堀麦水の『三州奇談』に次のような話があります。
元文年間のある夜。
某武士が全昌寺の裏手を歩いていると、生暖かい風とともに火の玉が飛んできたので、それをとっさに斬りつけました。
火の玉が二つに割れます。
するとネバネバとしたものが飛び散り、赤い松脂のようなものが顔に貼りつきました。
驚いて目を見開くと、松脂を透かして周囲を見通すことができました。
翌朝。
土地の古老が教えてくれました。
「そいつはくらげの火というものだ」
「あのとき生暖かい風が……。あの火の玉はいったいどこから?」
「くらげだ、ミナミに決まっておる」
・ミナミ=みな身=南
・堀麦水(ほりばくすい・1718~1783・俳人)
『三州奇談』(さんしゆうきだん・加賀・能登・越中の奇談・怪談・珍談を集めたもの)




