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49 小雨坊
小雨坊という妖怪がおります。
鳥山石燕の妖怪画集『今昔百鬼拾遺』に描かれてあり、山田野理夫の著書『東北怪談の旅』では山間の街道筋に現れ、旅人にまず粟を求め、粟がなければ小銭をねだったとあります。
ある雨の日。
小雨坊は峠で、人が通りかかるのを辛抱強く待っていました。
旅人らしき男が峠道を上ってきます。
小雨坊はさっそく男に粟をねだりました。
「粟を持っておればくださらぬか?」
「粟餅ならあるが」
男が荷の包みから粟餅を取り出しました。
「ではありがたく……あっ!」
ころころころ……。
粟餅は小雨坊の手からこぼれて転がり、道端の水たまりの中に落ちてようやく止まりました。
苦労の末の粟餅。
水のアワとなりました。
・アワ=粟=泡
・水の泡=努力や苦心がすべて無駄になる
・鳥山石燕(とりやませきえん・1712~1788・画家)
・『今昔百鬼拾遺』(こんじゃくひゃっきしゅうい)




