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483 縊鬼1
縊鬼という妖怪がおります。
縊鬼は首をくくって死んだ者の霊で、冥界を出て転生をするには自分に代わる死者が必要なことから、その者に自死を促すといい、民間伝承に次のような話があります。
とある宿。
夜も更けた時刻、その武士は障子に映る怪しげな影を見ました。
やがて女の悲鳴が聞こえ、武士が刀を抜いて急いで駆けつけると、気を失った女の首に紐をかけようとしている影がありました。
武士は影に向かって刃を振り下ろしました。
影は首が落ちて消え、それと同時に女は正気に戻りました。
「あたしは……」
「もう何の心配もいらぬ」
武士が女を抱き起こします。
その顔は自慢げで、さも鬼の首でも取ったかのようでした。
・鬼の首でも取った=大変な功名や手柄を立てたかのように得意になる
 




