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435 甚六
甚六は説話の一種で、これは江戸時代中期、作者不詳の仮名草子『善悪報ばなし』に次のような話があります。
その昔。
近江国に甚六という無慈悲な男がいたのですが、あるとき病に伏せて死んでしまいました。
その後。
甚六なき家に1匹の犬が住みつき、その犬が盗み食いをしたのを見た息子の嫁は、杖でもって犬を叩きました。
このとき犬が人の声で話します。
「私はおまえの舅だ。生前は何も他人に施すことがなかった。さればその報いによって、今こうして畜生の身を受けた」
嫁は犬が舅の生まれ変わりだと知り、それからは親に食事を用意するのと同じ思いで世話をしました。
嫁が問います。
「今の生活はどうですか?」
「ワンだふる」
・ワンだふる=ワンダフル
・『善悪報ばなし(ぜんあくむくいばなし)』(作者不詳・仮名草子)




