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431 芭蕉精
芭蕉精は怪異の一種です。
江戸時代中期、鳥山石燕の妖怪画集『今昔百鬼拾遺』にあり、植物の芭蕉の霊が人の姿になるとしています。
元禄の頃。
芭蕉精はある老人のことが気になって、その者に会ってみたいと江戸深川へと行きました。
その老人。
自分と同じ芭蕉という名を名乗り、しかもずいぶん人気があるといいます。
芭蕉精は美女となって芭蕉の庵を訪ねました。
若い男が出迎えます。
「芭蕉どのはいらっしゃいますか?」
「師は旅に出ております」
「どちらへ?」
「奥州です」
「そんなに遠くまで?」
「紀行なんです」
「キコウ?」
「ええ、俳諧の」
芭蕉精は庵をあとにしました。
――徘徊の奇行とは……。
・俳諧の紀行=徘徊の奇行




