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43 お歯黒べったり
お歯黒べったりという妖怪がおります。
江戸時代後期、桃山人の怪談集『絵本百物語』にあり、これには顔に目と鼻がなく、大きな口にお歯黒をつけた女が描かれています。
ある夜。
弥太郎という男が神社の前を通りかかると、美しげな女が本殿に向かって伏し拝んでいました。
弥太郎は気になって声をかけました。
「ちょっと……」
女が振り向きます。
「ぎゃっ!」
その女の顔には目と鼻がありませんでした。
「けらけら……」
女が高笑いします。
「あんた、も、もしかしておミツさんでは?」
弥太郎は女の口元を指さしてたずねました。
「あら、目と鼻がないのに何でわかったのよ?」
「そのお歯黒だよ」
「まあ!」
「それで、おおかた目鼻がついたんだ」
・目鼻がつく=おおよその見通しが立つ
・桃山人(とうさんじん・1804~1844・戯作者)
・『絵本百物語』(1841年刊行・奇談集)




