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402 石妖
石妖という妖怪がおります。
静岡県に伝承があり、江戸時代の本草学者、佐藤成裕の『中陵漫録』に次のような話があります。
その昔。
伊豆国の石切り場に一人の女が現れ、「按摩をしてさしあげましょう」と言って、石工に近づいてきました。
按摩をして石工が寝入ると、女は次々と按摩をしていき、石工たちは寝入ってしまいました。
あと一人となった石工は女を妖怪だと考え、こっそり石切り場を逃げ出しました。
半刻後。
石工が猟師を連れ帰って鉄砲で撃つと、女は石となって砕け散り、目を覚ました石工らの背中には、みな石で引っ掻いたような傷がありました。
「その傷、石の妖怪に按摩をされたときに引っ掻かれたんだ」
「あんまー」
・あんまー=あれまあー=按摩
・佐藤中陵(さとうちゅうりょう・1762~1848・本草学者)
・『中陵漫録』(ちゅうりょうまんろく・雑筆)




