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394 桐一兵衛
桐一兵衛という妖怪がおります。
斬一倍ともいい、新潟県南魚沼郡などに次のような話が伝わっています。
その昔。
ある侍がおのぼり峠という峠道を歩いていると、小さな子供が追いかけてきて言いました。
「早く歩いて、お父様に抱かれ」
侍が怪しく思って足を速めると、子供はさらに追いかけてきました。
侍は化け物だと直感し、刀で真っ二つに斬り捨てました。
ところが二つに斬られた子供は二人になり、それらを斬るとそれぞれがさらに二人になり、斬れば斬るほど倍に増えてゆき、やがて数え切れないほどの数になりました。
侍はたまらず逃げ出しました。
この桐一兵衛。
斬っても斬ってもキリがありませんでした。
・キリ=斬り=限り(きり)




