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383 野衾
野衾という妖怪がおります。
江戸時代後期の奇談集『梅翁随筆』によると、その当時、江戸の町に猫を襲って血を吸うイタチのような獣がいて、それには羽のようなものがついていたとあります。
江戸時代の古書『狂歌百物語』では、野衾は空を飛んできて、衾のように人の口を覆ったとあります。
奇談集『絵本百物語』によればコウモリが妖怪化したもの、また鳥山石燕の妖怪画集『今昔画図続百鬼』にはムササビとあり、いずれも空を飛んできて戸のように人の口を覆いました。
当時の江戸。
正体はイタチだ、コウモリだ、ムササビだのと、野衾の知らぬところでいろんな噂が流れました。
この野衾。
世間の口に戸は立てられませんでした。
・『梅翁随筆』(作者不詳・奇談集)
・『狂歌百物語』(狂歌絵本)
・桃山人(とうさんじん・1804~1844・戯作者)
・『絵本百物語』(1841年刊行・奇談集)
・鳥山石燕(とりやませきえん・1712~1788・画家)
・『今昔画図続百鬼』(こんじゃくがずぞくひゃっき)




