350/924
350 卑湿地ベコ
卑湿地ベコは幕末明治期、平尾魯遷の『合浦奇談』に次のような話があります。
文化年間。
津軽下相野村の某男が卑湿地で泥炭を掘っていたところ、鍬の刃先にべっとりと血がつきました。
男が仲間を集めて掘り進めると、やがて血にまみれた物が出現し、それは丈1メートル半、幅1メートル近く、厚さ30センチほどで、手足も目も口もなくナマコに似たものでした。
みなが怖れるなか一人の老人が、「これは卑湿地ベコというもので、昔からこの地に雌雄2匹がいる。殺すと祟られるそうだ」と言うので、鍬を隠して見守っていると、それはやがて土の中に姿を消しました。
この卑湿地ベコ。
クワナケレバ害はなかったといいます。
・クワナケレバ=鍬なければ=食わなければ
・平尾魯遷(ひらおろせん・1808~1880・画家、国学者)
・『合浦奇談』(がっぽきだん・説話、奇談)
・泥炭=泥状の炭で石炭の一種




