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344 鐙口
鐙口という妖怪がおります。
江戸時代中期、鳥山石燕の妖怪画集『百器徒然袋』にあり、鐙は馬具の一種で、馬に乗っていた武将が戦死したことで、鐙だけが野に残って付喪神となったものでした。
これは鐙に口と目ができ、帰ってこない主をいつまでも待ち続けているといいます。
ある戦場跡地。
その鐙口はもう何百年と、敵の刃に倒れた亡き武将の帰りを待っていました。
本体の鐙は腐ってもう形はありません。
そこへ妖狐が現れました。
「なあ、まだ待ってるのか?」
「ああ」
鐙口は実際のところ、いいかげん待ち飽きて、うんざりしていたのですが……。
この鐙口。
たとえ口が腐っても、待ち飽きているとは言えませんでした。
・口が腐っても=鐙は腐っても
・口が腐っても=けっして他言しないという決意を示す
・鐙=騎乗時に足を乗せる馬具の一種
・鳥山石燕(とりやませきえん・1712~1788・画家)
・『百器徒然袋』(ひゃっきつれづれぶくろ)
 




