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31 カイナデ1
カイナデという妖怪がおります。
カイナデは京都府に伝承があり、1年のうち節分の日のみ厠に現れ、便壺の暗い穴から手を伸ばして人の尻をなでるといわれています。
その昔。
とある長屋に独り者の男が住んでおりました。
この年の節分の日。
――なでられてたまるもんか。
毎年のように尻をなでられていた男は、今年こそは尻をなでられまいと、朝からずっと大便を我慢していました。
夜分。
下痢なのか腹が強烈に痛くなってきました。
――もうダメだ!
男は覚悟を決めて厠に入ると、いつもとは反対向きにかがんで一息にクソを出し、それからひょいと飛びのきました。
カイナデの手が宙を空振りします。
その手はクソまみれでした。
「クソー」
・クソー=くそー=糞




