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29 さがり1
さがりという妖怪がいます。
岡山県などに伝承があり、馬の首が道端の木の枝にぶら下がり、鳴き声をあげたりして、夜道を歩く者らを驚かせたといいます。
月も風もない夜。
ある男が提灯を手に、大きな屋敷のそばを通りかかったときのことでした。
ザワザワ……。
土塀を越して伸びた木の枝が揺れて、提灯の明かりが奇妙なものを照らし出しました。
「ぎゃっ!」
男はおもわず尻もちをついてしまいました。
生々しい馬の首が枝からぶら下がっていたのです。
「なまんだむ……」
男は必死に念仏を唱えました。
しかし……。
念仏の法力がきかないのか、馬の首はそれからもぶらぶらと揺れ続けていました。
このさがり。
馬の耳に念仏でした。
・馬の耳に念仏=馬を相手にありがたい念仏を唱えても無駄




