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276 釣り小僧
釣り小僧という妖怪がおります。
これは和歌山県紀の川市に次のような話が伝わっています。
その昔。
ある男が紀の川の上流で鮒釣りをしていると、そこへ5、6歳の子供がそばに寄ってきました。
男が釣った桶の鮒を見せると、子供は嬉しそうに指を折ってその鮒を数え、食い入るように桶の中の鮒を見ていました。
子供はしばらく桶の鮒を見ていましたが、そのうち頬に長いヒゲがぴょんと突き出しました。
――こいつは狐か狸が化けたものでは?
男はとっさに釣り竿を振り下ろしました。
すると子供は一瞬で目の前から消え、同時に鮒を入れておいた桶も消えていたといいます。
この釣り小僧。
釣られた鮒を放ってオケナカッタのでした。
・オケナカッタ=桶なかった=おけなかった




