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270 朧車
朧車という妖怪がおります。
江戸時代中期、鳥山石燕の妖怪画集『今昔百鬼拾遺』にあり、牛車の前面に巨大な顔と、おぼろげな輪郭で半透明の体が描かれています。
ある朧月夜の晩。
朧車は辻角でじっと息をひそめ、獲物の人間がやってくるのを待っていました。
やがて流れる黒雲に月がおおわれ、あたりがにわかに闇に包まれてゆきます。
ボコッ!
朧車は頭を殴られてひっくり返りました。
背後には車争い仇、輪入道と片輪車がニタニタと笑いながら立っていました。
「オレたちの邪魔をするんじゃねえよ」
「闇夜は気をつけることね」
この朧車。
あちこち傷ついてオンボログルマになりました。
・オンボログルマ=朧車=オンボロ車
・鳥山石燕(とりやませきえん・1712~1788・画家)
・『今昔百鬼拾遺』(こんじゃくひゃっきしゅうい)




