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264 おとろし1
おとろしという妖怪がおります。
これは江戸時代中期、鳥山石燕の妖怪画集『画図百鬼夜行』にあり、神社に悪意を持つ者や不心得者が侵入すると、鳥居の上からいきなり落ちて脅かしたとされています。
その昔。
たいそう不信心な男がおりました。
ある日のこと。
神社の鳥居をくぐる男の前に、頭上から突如として得体の知れないものが落ちてきました。
よく見れば長い髪におおわれ、顔に前髪をたらした女です。
男は目の前の女に文句を言いました。
「びっくりするじゃねえか。いきなり人の前に落ちてきやがって」
「人の前に落ちてあたりまえさ。人を驚かすことにかけちゃ、私は誰にもひけをとらないからね」
このおとろし。
人後に落ちない妖怪でした。
・人の前に落ちる=人後に落ちない=ひけをとらない
・鳥山石燕(とりやませきえん・1712~1788・画家)
・『図画百鬼夜行』(がずひゃっきやこう)




